初めて君に会った、あの夜を思い出した。
直生さんに誘われた、あの店で。
夜の闇を駆け抜ける、流れ星のような君に出会った。
“完璧だ”
近づく君を見て、そう思った瞬間。
“こんばんは”
君は俺を見て、微笑んだ。
それが、俺の。
長い夢の始まり。
華奢な身体が隠し持った、強さを知った。
倒れるまで、俺に合わせて水に浸かった君は。
俺の中にも愛しさが備わっていたことを、教えてくれた。
夕陽をその瞳に閉じ込めようと。
息を止めて、海を見つめる横顔も。
助手席で、膝を抱えて。
鼻歌を歌う、子供のような姿も。
過去に囚われ苦しみながらも。
自分を取り戻そうと、泣きながら震えていたあの夜の背中も。
君を知れば知るほど。
君に触れれば触れるほど。
誰よりも君と、生きたいと。
願わずには、いられなかった。
『陽斗くん。ありがとう。』
分かっていたのかもしれない、本当は。
君は永遠の、憧れの人。
決して手には入らない、君の放つ光の尾ひれを追いながら。
永遠に焦がれるべき、尊い人。
『________________そして、ごめんなさい。』
今、君が俺に返そうと。
差し出すこのパスを、受け取れば。
きっとこれが、この恋との今生の別れ。
『ありがとう・・・』
涙声が、震えてる。
それでもその瞳は、決して緩まずに。
そらすことなく、俺を見据えてる。
泣きたい時でも、泣く顔をしないんだな。
相変わらずな君に、溢れるこの思いは。
これからどこへ、向かわせればいいんだろう。
「理沙子。俺は君が好きだよ。」
『・・・っ、わたしっ・・・』
「言わせて、最期にするから。」
強くその手を引けば。
別れを示すパスは、簡単に君の手から溢れ落ちて。
両腕で、君を強く抱き締める。
君の身体の温度を。
この身体が一生、忘れないように。
二度と触れられなくなる、君を。
君の全てを、焼き付ける。
「誰よりも、君が好きだった。
俺と出会ってくれて、ありがとう。」
最初で最期の嘘をつく。
“好きだった”、なんて。
過去にできる自信なんて、今この瞬間も毛頭ないくせに。
やっと胸の中で聞こえてきた、小さな嗚咽に。
到底役不足だった自分を、思い知る。
航。
この愛しい人を、素のままで生かせるのは。
もう、お前しかいなかったんだよ。