初めは、まるで世界が。
全ての音を、失ったみたいだと思った。
ただ、発光体のように一人光りながらステージを行く姿に。
急所を押さえつけられたよう。
呼吸さえも、浅くなるばかりで。
身動き一つできなかった。
どうして、気づかなかったんだろうと思う。
二人が並べば。
違う、他の誰と並んでも。
こうして見せつけられれば、私には彼の姿しか見えない。
湧き上がってくる、立っていられないほどの感情に。
彼の声が欲しくて、もう一度、瞳を閉じた。
視界を閉ざして、ようやく身体に届く彼の歌声。
たくさんの音をすり抜けて、私の鼓膜は彼だけを探す。
低音から、高温まで。
自在に私を操って、高く高く連れて行く。
こんなにも、彼に。
今すぐに触れたい。
ぼろぼろと、気づけば。
止めどない温かさが、頬を伝っていく。
謝りたい、ただひたすらに。
愚かな私の側で、待たせたことを。
伝えたい、ずっとその存在が。
私の、光だったことを、
好き。
私の世界には、もう。
貴方しか、いらない。
いつの間にか。
葵ちゃんの手を離して、私は一人で立っていた。
身体いっぱいに、貴方の声を吸い込む。
もう一度、瞳を開けたら。
貴方に、会いに行く。
ブーゲンビリア。
赤い果実と、花火の音。
肩越しに見た、朝焼けの空の色。
南国の香りが、鼻先を擽る。
長すぎた、柔らかい夢。
矢のように降り注ぐ流星の中で。
やっと私は、目を覚ます。