ペットボトルのお茶を受け取る。
荷物になるからって、葵ちゃんは二人で一本にした。
私が持つよって言ったのに。
自分のクラッチにぎゅうぎゅうに押し込んで。
姉であり、母であり。
大切な、女友達。
『・・・ありがと。』
「Starsが出たってことはね。次が、planetなのよ。」
口に含んだ瞬間広がる、生温い渋さがやけに現実的で。
「出てくるわよ、陽斗くんと七瀬くん。」
盛り上がる風景に置いていかれた身体を、感じさせる。
キュッ、と蓋を閉めたら。
当たり前のように差し出された大きな手に、ペットボトルを預ける。
「確かめなさい、自分の心を。」
いつの間にか、爆音は消えていて。
落とされた照明、会場はぼんやりと暗くなっていた。
「あたしが最後まで、隣で見ててあげるから。」
そう言って、ステージを見据える葵ちゃんの横顔越しに。
同じ列の、ずっと向こう。
花冠の女の子たちが、歓声を上げて立ち上がるのが見えた。
前方にいた男の子たちの集団が。
タオルを振り回して、飛び跳ね出す。
遠くから徐々にボリュームをあげて近づいてくる、イントロが。
私にも懐かしく耳慣れたものだと、身体が気づく。
『葵ちゃん、これ・・・』
右手が、大きな柔らかさに包まれた。
震え出した膝に気づいて、縋るようにその手を握り返す。
流星のように瞬く音の中で。
“ここだ”
そう思ったタイミングで、鼓膜を貫く、その声に。
弱い私は、情けなくも瞳を閉じる。
追いかけるように重ねてくる、あの声に。
閉じているはずの視界も眩むほど、揺さぶられる。
怖い。
そう思った瞬間、深く繋ぎ直された右手の温かさに。
私はゆっくりと、瞳を開いた。