バクステからモニターを覗いて。
見つけた顔に、思わず口元が緩んだ。
隣の女の人に、フラッグを振って見せて笑ってる。
楽しめてそうだな、よかった。
珍しく、ほんの少しだけ。
ピリッとした感覚が、芯に走る。
気持ちのいい、緊張感。
あと、もう一人。
まだ誰も知らないクライマックスを飾る。
流れ星のような、主演女優。
__________________いた。
残念ながら、見つけたのは彼女ではなかったけれど。
葵さんがいる。隣の席が空いてるのを見ると、多分あそこなんだろう。
「航さん、来てるよ。」
目を閉じて、最後のヘア直しを受けてる航さんを振り返るけど。
「見る?席、分かったよ。」
「いい。」
少しだけ開けた唇から、たった一言。
返ってきたのは、期待通りのつれない返事だった。
この広い会場の、どこかしこにも。
声を届けるつもりなんだろう。
“らしい”な。
最後まで、変えなかった想い方。
自分のことになると鈍感な理沙子に届くには、少し時間がかかったけど。
二人だけしか知らない、幾つもの夜を越えて。
お互い、流れ星のように惹きあったくせに。
「チョコさん、お願いします。」
航さんと入れ替わりに呼ばれる。
すれ違う、自由になった航さんは。
本当にモニターに見向きもせず水を取りに行った。
メイクさんの肩越しに、陽斗さんがイヤモニをいじりながらやって来るのが見えて。
いつものように、二人は軽く肩と肩をぶつけて、背中を叩き合った後。
航さんの背中を背景に、強い眼差しで客席を映すモニターを覗く、陽斗さんの横顔は。
本当に、長い映画のラストシーンのようだった。
サングラスで視界を覆った背中の男が、主役だったのか。
間違いない場所に置いた彼女を、隠すことのない熱い瞳で探す男が、主役だったのか。
この夏の夜空を駆けた、三つの閃光が。
彼女の手によって、いま解かれる。
陽斗さんの視線が、画面の中をくるくると動いていて。
葵さんって、分かる?
あの人の隣の席が、理沙だよ。
そう、声をかけようかと思ったら。
一点を見据えて、動かなくなって。
さらに熱く、燃えたように色づいた瞳に。
もう、このラストシーンには、三人以外の登場人物は存在しないことを。
今更ながらに、思い知る。
見届けるよ、理沙。
俺は俺の、君が与えてくれた役の場所から。
君の選んだラストシーン。
君の親友は。
俺だけで充分だ。