「俺は理沙子を、待ってるから。」
多種多様な意味が込められた、言葉に。
至近距離で見上げる、意志の強そうな眉に。
返事が出来なくて、唇を噛む。
「おやすみ。」
来る、そう思って。
慌ててキュッと目を閉じた時には、おでこに柔らかなキスの音。
私の頬は、思わぬ彼の仕草に。
音を立てて、反応した。
『おや、すみ・・・』
かろうじて、溢れた常套句。
あっさりと、背の高い男は。
針がなくなっても大人しく壁に張り付いたままの私を、一人残して。
暗い世界に続くドアを開けて、まだまだ深い夜の闇に消えて行った。
チェーンを、かけなきゃ。
こんなところに立ってないで、私も部屋へ入らなきゃ。
そう思ってるのに。
意識に反して、身体は壁伝いにずるずると崩れ落ちる。
恐る恐る、額に触れる。
火傷するほど熱くなったそこに、指先が届いたとき。
私は、あの瞬間、閃光のように走った感情を確認した。
私、さっき。
足りない、って、思った_____________。
長いキスや、深いハグで。
身体が焦れるように熱くなる、あの感じじゃなくて。
何度も呼ばれる名前で。
身体が灼けながら覚醒していく、あの感じじゃなくて。
一瞬で、燃えた。
私、航大が。
もっと欲しい、って、思った_____________。
目眩と、突き上げてくる鼓動が苦しい。
次々と溢れ出す感情に、意識が追いついていかない。
見落とす、このままじゃ。
もう、見落としてる暇なんかないのに。
溜息にも似た深呼吸と一緒に、視線を膝に落とすと。
首から掛けられた、パスが目に入った。
うっかり、二個ももらっちゃったし・・・
私、この重たすぎる鍵を。
間違えずに、正しい部屋に使えるんだろうか。
この鍵を差し込んで、開いた扉の向こうには。
私が想う人が、ちゃんと立っているんだろうか。
首を振って、のろのろと立ち上がる。
閉まったドアに、チェーンをかける。
カチャカチャという爪の音に振り向くと、レオンが蜂のぬいぐるみを引きずって戻って来た。