“賭けろ”


その言葉は。
航大なりの、甘い、懇願。

いやに騒ぐ胸に、また視線を逸らそうとすると。




「こっち見て。」

許さず、両頬を元に戻される。





航大の瞳が、私の唇を捕らえて細く閉じていく。


両頬に触れる、大きな手に。
上から、震える手の平を合わせた。






私、今がきっと初めて。
航大のキスを受け入れようとしてる。

これまでみたいに、急に押しつけられたり塞がれたり。
そんな突然なものじゃなくて。

ちゃんと、分かってて目を合わせてる。







濡れた瞳に、胸が鳴る。






もう言葉なんて。
いらないと、思った。







狙われる唇を薄く開けて、代わりに瞳を閉じていく。



一つになる、二つの唇________


















キューキュー、と。
妙な音と、気配を感じて。

ふと、視線が足元に落ちた。




『レオン!』

「え、」


小さな、白い綿毛のような尻尾を千切れんばかりに振り回して。
キラキラ光る瞳を、一心に航大に向けて。
レオンが足元に、立っていた。



『ただいま~♡起きたの?おいで。』


しゃがんで手を伸ばすと。
おとなしく膝に上がり、今度はそこから航大を見上げた。



『ほら、おじさんが遊びに来てくれたよ~。』

「誰がおじさんだよ。笑」



隣に腰を下ろし、大きな手でレオンの頭を撫でる。



「お前は、本当にタイミングが悪いね。」

『違うよねぇ、会いたいから、起きてきたんだよね。』



航大の声にも、私の声にも。
どちらにも反応して、その度小さな首を動かすけど。

やっぱり、航大を見上げて。
パタパタと、お尻ごと尻尾を振る。

なのに、ピタっとその動きも止めたかと思うと。
あっという間に、腕をすり抜けてリビングへ走って行った。




『あれ?』

「俺、もう行くわ。」


腰を上げた航大の声に。
慌てて私も、立ち上がる。




「明後日。気をつけて来いよ。」

『大丈夫、葵ちゃんと行くから。』







「理沙子。」


ドアに手をかけて、振り返る。




なに?

そう、応えようとしたら。








髪が落ちてきてることを感じて、軽くうなじを押さえてた左手を取り上げられ




壁に、張り付けられた。



『な・・・に・・・?』



この、動作に似合わない。
柔らかな瞳が、サングラスの隙間から覗いてる。