ひどい鼻声で、電話越しに「平気です」と笑った声が耳に戻る。

理沙ちゃんに、様子を見に行くよう頼んだ。
「うつせない」と、彼女は最後までドアを開けなかったらしい。




直「フライングしたとは思ってない。
浅山にも、十分時間はあっただろ。」


俺の記憶の中の彼女には。
いつも側に、この男がいた。

悪態をつきながらも。
いつも彼女を、見つめていた。



浅「負ける勝負はしない主義なんです。」

直「その時点で、負けてるでしょ。」




平行線だと思う。
浅山は、瀬名さんが好きだ。
だけど俺は、譲らない。


遅かれ早かれ、こうなる気はしてた。
この男に、噛みつかれて吠えられて。

だけど、こんなに。
自分が熱く反応してしまうとは思ってなかった。



この男を、脅威に感じるのと同時に。

どうしても彼女が、欲しいと思う。





浅「邪魔しますよ、隙見せたら。」

直「見せないよ。」

浅「俺のほうが、あいつを知ってます。」

直「お前の知らない顔を、俺は知ってる。」



グッ、と。
眉を寄せた表情に、我に帰る。


浅「・・・やっぱ、あんたなんかしたんだろ。」

直「してない。
お前が今想像したようなことは、何一つしてない。笑」




腰のあたりで握りしめられた拳を見て。

そういえば、コートの中に入れた自分の両手も。
同じようになっているのに気づく。













「直生さーん!」


廊下の向こうから、チョコが大声で呼んだ。
大きく手を振って、“呼んでいる”素振り。

恐らく、絶妙のタイミングを、計って。



直「・・・じゃあね。浅山も、早く帰って。
瀬名さんが戻って来たら、サポートしてあげてね。」


浅「あいつは、人のサポートが必要な女なんかじゃありませんから。」


直「あのさ。」


すれ違う足を、止めた。

どうしても、見逃すことができない。
幼稚だと、分かっていても。



直「“あいつ”とか“女”とか、もうやめてもらえる?
______もう、お前のじゃないんだからさ。」


浅「・・・!」






顔色を変えた、浅山を。
弟のようだと思っていた、チームメイトを。

暗い廊下に一人残して、俺を待つ車に急いだ。




「チョコ、ありがと。」

「いや、俺が早く帰りたくて。笑」



俺が、やるべきこと。
もどかしくても、死ぬほど触れに行きたくても。

彼女のために、俺はここを守る。