久々、葵ちゃんと業後にお蕎麦を食べに来た。
行きつけの、チョコと前回友達になれた店。笑


前回と同じカウンターの席に通されたとき、胸がふんわり温かくなった。

あれから、5年越しの彼女と、距離縮められたかなぁ・・・?









「あんたって、ほんとモテるよね。」


葵ちゃんが女子らしく?
チュルチュルお蕎麦を啜りながら言った。


『モテないよ。もう3年も彼氏いない。』


葵ちゃんは、仕事のことを言ってるわけじゃない。
仕事に関して言えば、ありがたいことに商売大繁盛だ。



自分でも、よく分からない。
この仕事が向いてるのか、これから先どうなっていきたいのかなんて。

ただ、今の私にはこれが生きる術なんだろうとは強く思う。








「なんだろうね、たぶんメンズにしか分からない、キラキラオーラとか出てるんだろうね。
ほら、犬にしか聞こえない犬笛みたいな。
そんな究極の美人ってわけでもないしさ、チビじゃない?それでもメンズが吸い寄せられてくるのは、あんたの持って生まれた才能なんだろうね。」


今更しみじみ目を細めて私を見てくる葵ちゃんに、吹き出してしまった。


『上げてるのか下げてるのか、全然分かんないんだけど。笑』


チビはヒールで誤魔化せるからね、と足元のルブタンを揺らした。





「陽斗くんと航くんって、同じグループなんでしょ?ツインボーカルなんだってね。あたしもあんまり詳しくないんだけど。」

『らしいね。けど私、航大とは何もないよ?』


お茶ください、とカウンターの中にいた大将に声をかける。


「航大とは、ってことは陽斗くんとは何かあるわけ?いやらしい女ね・・・」


葵ちゃんが心底嫌そうに、眉間にしわを寄せて私を見た。


『ないないない!あげ足とらないでよー。笑
チケット届けてもらったのも謎だよ。
そーいえば2枚あったから、葵ちゃん一緒行く?』


当たり前でしょ!と高い声でなぜか怒ったような言い方をした葵ちゃんがおもしろくて、笑ってしまった。



そんなとき、テーブルの上に出していた携帯が震えた。


液晶に写された下4桁は。

私がさっき画面をなぞった番号だった。












小走りでお店の外に出て、通話マークをタップする。

外はまだぬるい雨が降っていて、じとっと生温かい空気が肌にまとわりつく。





『もしもし!』

「・・・あ、要、ですけど・・・
理沙ちゃん?」

『あ、はい。理沙子です。折り返しありがとうございます。
ていうか、チケット!わざわざお店に寄ってくださったみたいで。
ちゃんと受け取りました、ありがとうございました。』

「いやいやいや・・・よかった、早速受け取ってくれたみたいで。」



俺から電話くれって言っときながら、出れなくてすみませんと優しい声が耳をくすぐった。



『お仕事終わりですか?遅くまでお疲れさまでした。』


手元のシャネルの腕時計を見れば、もうAM2:00を回っている。


「いやいや、理沙ちゃんこそ。」


電話口の向こうで、はにかんだ笑顔を感じた。






「よかったら、一度ライブに来てほしいです。
今回渡した分は、日程的にまだだいぶ先のものなんだけど。
もし都合が悪ければ、また違う時にでも。」


『ありがとうございます。
2枚もいただいたから、友達誘って行けるし。日曜日はお店休みなんです。』



よかった、がんばりますと嬉しそうな甘い声に、思わず私まで嬉しくなった。





「また、お店に会いに行ってもいいですか?」

『ぜひぜひ♡
もっと要さんのこと知れるの、楽しみにしてます。』


仕事ネタになったので、軽く小技を出してみる。

返事の代わりに聞こえた、小さく息を飲む音。
あの夜の、赤い顔で上を仰ぐ姿が目に浮かんだ。

とろける笑顔を思い出したら、使い古した記憶にもまだ胸が反応した。








遅いから気をつけて、と甘い声は囁いて電話は切れた。

要さんの声は、機械を通すとますますくすぐったい。






ひたひたと雨音が響く中、思いっきり空気を吸ってみた。

この生温い空気では、熱くなった耳も心臓も冷ませそうにはないけれど。