見上げるサングラスの奥の瞳は、見えなくて。
だけど空気は、1ミリも揺れたようには見えなかった。


「で?」

『だからっ・・・、』



もう陽斗くんから受け取って持ってる、だから航大からは受け取らない。



もう一度そう答えようとしたら、スタッフパスはフワッと頭から首を通って、胸に落ちてきた。



「俺は、これを使って俺に会いに来いって言ってんだよ。」

『また、首輪とか言うの?いらないってば。』



ちっとも動じない。
私の何もかもを、見透かしたような今夜が悔しくて。

精一杯の強がりを込めて、睨み上げる。




「首輪をつけても、印をつけても。
どうせお前は、逃げて行くだろ。」



つい数分前、キスの嵐を浴びた首筋に。
大きな手の平が、触れる。
柔らかくて温かくて。
思わず閉じそうになる瞳に、堪える。





「それでもいいよ。何度でも、迎えに行ってやるから。」






迎えに、“行ってやる”。
この男らしい言いぐさに。

落ち着きのない今夜、やっと浴び慣れた不器用な愛情表現を感じて。
じんわり、心は熱く反応した。








思えば、私が自分の隙から恐怖を招いた夜も。

逃げ続けた過去から、目を背けようとした夜も。

新しい出会いに、大きく揺れた南国でも。


当たり前に、揺れる私を迎えに来て。
当たり前に、抱き寄せた。



こんな、腹立たしくて。
こんな、ご名答な台詞。

やっぱり、私には航大しか言えないと思う。









「どうせ陽斗から、甘いこと言われてんだろ。
新鮮でときめいて、キュン♡とかしちゃったんじゃねぇの。」

『・・・べつに!』


幾分かの心当たりに。
思わず、声が上ずる。



「俺と違って熱っぽいからね。
女が望むようなこと、自然とできるんだろうし。」


なんでだろう、ちっとも。


「あいつは、本当にいい男だから。」


陽斗くんを、卑下してるように聞こえない。
首筋を上下する親指の感触が。
くすぐったいのに、安心する。




「だけど、忘れんなよ。
炎は青いほうが、熱いんだよ。」

『は?』


いきなり始まる、精神論?
悪戯に持ち上がる、口元の意味が分からない。