深夜の駐車場。
車のドアの音も、反応する鍵の音も。
何もかもが、今日は響いて聞こえて。
「なに、きょどってんの。笑」
必要以上に辺りを見回してしまう、私を。
航大は面白そうに笑った。
『寝てたらすぐ帰るんだよね?』
「帰るよ。」
誰もいない、地下から住居階に上るためのエレベーターホール。
少し離れて、並んで待つそこで。
クラッチの中を漁って、探すカードキー。
また、掬われるような視線を感じて、ふと顔を上げると。
『・・・なに?』
「べつに。」
満足そうに微笑んで、首を横に振る。
サングラスの奥からも、私を逃がさない、むしろ熱が上がる視線に。
唇を噛むと、指先がカードキーを探り当てた。
黙ったまま乗り込んで、ドアが閉まると。
あっという間に、深く捕らえられる右手の平。
一分にも満たない、37階へと上がる小さな箱が。
永遠に続くように長く感じるのは。
上がり続ける、鼓動のせいだと思った。
開いたドアを、先に下りる背中を追いかける。
廊下に響く、小走りのヒールの音。
前を行く、見慣れた広い背中。
当たり前に、私の部屋の前へ立ち止まる脇から。
カードキーを滑らせて、ドアを開ける。
人感センサーのライトで、すぐに明るくなる玄関。
人工的な眩しさに、目が眩みながらも。
『レオンー。』
ヒールに指をかけながら、控えめに呼んでみる。
やっぱり走って来ない、小さなあの子に。
ほら、やっぱり寝てるよ?
そう言うために、首を回そうとしたら。
瞬間的に、強く身体を奪われた感覚。
視界が飛んで、思わずクラッチが手から滑り落ちる。
スローモーションのように、大理石に叩きつけられて。
軽く跳ね上がった口から、リップやコンパクトが溢れて散らばった。
息つく間もなく、首筋に吸い付く唇。
何が引き金で、こんなに急に求められてるかが分からない。
『ちょっ・・・、』
何度も、何度も。
細かく場所を変えては、落とされる柔らかい感触。
微かに聞こえる、濡れた音に。
必死で理性を、手繰り寄せる。
鎖骨に刺さる、デイトナの固さが痛い。
『航大、時計、痛いっ…』
押さえつけられた肩を浮かすように、抵抗すると。
一瞬だけ、緩んだ腕が。
位置を変えて、さらに強く身体を引き寄せて。
後ろから、深い香りに抱きすくめられた。