一つ、クシャミをしたら。
カーディガンがあるからいい、と言ったのに。
無理やり肩に、ジャケットを掛けられた。




『来てもいいけど、多分レオン寝てるよ。』

「お前が帰っても起きねぇの?」

『起きないな~。最近ね、昼にドッグラン連れてってんの。全力で遊んでるから、夕方には疲れて寝ちゃう。』

「へぇ、ドッグランか。ありがとな。」



俺、連れて行けたことないや、と。
そっと見上げたら、驚くほど優しい瞳。

レオンの父親みたい、と思った。





『レオンね、多分そこに好きな子がいるの。
超可愛いんだよ、千切れそうなくらい尻尾振ってジーッと見てるの!』

「まじで?あいつ盛ってんの?」

『おめーと一緒にすんな。』


あっは、と。
楽しそうに、口元を左手の手の甲で押さえる。

よく知る仕草なのに。
やっぱり私は、落ち着かない。



「まぁいいや、寝てたらすぐ帰る。
俺今日、この後仕事戻るから。」

『まじで?この後?ヤバくない?
てか何の仕事がこれからあるの?!』

「まぁ、いろいろ。笑
終わらせられなかったこととかあるから、事務所戻る。」



航大の左手首、デイトナが指すのはAM1:30。





『本当に何しに来たんだよ・・・。』

「だから、迎えに来たんだって。」

『ばかじゃないの?』

「ばかだろ、だから側にいろよ。」






支離滅裂な要求に。
何だか呆れて、もう口を噤んだ。












流れるように、走る車。
ほとんど揺れることのない、車内。

乗り物酔いしやすい私は。
今まで一度も、この車で酔ったことはない。








何となく、左じゃなくて右に身体を倒して、気持ちのいい革のシートに身を埋める。


ちょうどいい音量でかかるロックに。
骨っぽい指が、ハンドルの上で跳ねてる。



航大の横顔越しに。
流れていく夜のネオンと景色を見ていた。