顔を見なくなってから、二ヶ月も経っていないのに。
この人は、随分痩せた。
「なんで分かったの?」
悪戯に、上目遣いで笑う。
その表情は、初めて会ったあの日のようだと思った。
「そんなに、私と別れたかった?」
柔らかく微笑んだ口元が、アイスコーヒーのストローを離せば。
俺のとは違う、綺麗な丸が顔を出した。
「違うよ。」
初めて、人を愛したと感じさせた人。
「どうしても、会いたかったんだよ。」
年上のこの人に。
死ぬほど、憧れた。
沖縄の、熱を含んだ湿っぽい風が吹いて。
長い髪は、柔らかく舞った。
「航のそういうところ。本当、嫌い。」
「ごめん。」
「そうやって、私にすぐ謝るところも嫌い。
ここまで来て、なんでそんな言い方するのよ。
なんで、いつも悪い人になりきれないの。」
捨てられたくなかった。
傷つければ、怒らせれば。
簡単に、離れて行ってしまうような気がしていた。
俺が習得した、この人への接し方。
いつしか心よりも、顔色ばかり伺った。
おかげで、自分の心までも見えなくなり。
別の人を追うようになった自分の視線に、気づくのも遅れた。
「・・・ここは、謝るところよ。」
「ごめん。」
馬鹿ね、とため息をついて。
背もたれに、ゆっくりと腰をつける。
華奢な腕時計も、揺れるピアスも。
俺の知らない何もかもが、海を見つめる横顔によく似合った。
「私、航の家に行った時チョコに会ったんだけど。
知ってる?あの子、私に酷いこと言ったのよ。
番犬?って感じで。目釣り上げて悪い顔しちゃって、もう大変。
怖かったわ~・・・。」
その、割には。
どこか懐かしそうに、伏せた瞳を細める。
「ああ、私はそんなことを言われる、酷い人間になったんだなぁって。
やっと、理解したわ。」
あの日チョコが、酷いことを?
翌朝、与えたコーンフレークをケロっと食べて。
ニュースを見ていた背中が思い浮かんだ。
「レオンを返したときね、決めたの。
もう一度航が私を探したら、もうやめてあげようって。
ただ、一つだけやらせようって。」
「やらせる?何?」
「私が、こんな男、もうだめだって思うくらい。
酷いことを言ってよ。」
海を見ていた、瞳が。
俺にぼんやりと向き直った。
空虚な、瞳。