休日のオフィス。
もう見慣れた、そこで流れる雰囲気が嫌いじゃない。
平日と違って。
誰も来なければ、誰にも呼ばれない。
驚くほど集中できたり、簡単に行き詰まっていた頭がスポンと抜けたりする。
特に今朝は、理沙さんの極上味噌汁をいただいて出勤した。
あの人、料理もできるんだな。
男前なのに、可愛い。
美人なのに、距離が近い。
強いのに、知れば脆い。
会うたびに惹かれる。
存在自体が、才能な気がする。
要くんも七瀬くんも。
とんだ人に、堕ちたなと思う。
理沙さんはもう。
クライマックスの行方を知ってる。
だけど、本人がまだそれに気づいてない。
見間違えなければ、いいけど。
営業企画部フロアのセキュリティ解除をしようとして。
既に開けられた、解除済みのボタンの色と。
心当たりのある場所に、見覚えのある背中。
真っ直ぐ伸びて、壁一面の窓の外、大きな空を見てる。
よくあんな小さな頭に合うサイズがあったなと感心した、黒いハット。
「ちょっと、私の机に座らないでって言ってるじゃん。」
「おはよ。はい、ちんすこう。」
片側だけ上げる口元で、振り向いて笑う。
「ちんすこう?沖縄行ってたの?」
「うん。瀬名さん好きだったろ。
瀬名さんにしか買って来なかった。」
普通の女子が七瀬くんから聞いたら、完全に勘違いするであろう、こんな台詞。
だけど、四年の付き合いで私は。
反射的に、鳥肌を作る。
「私に何かご用ですか。
残念だけど、今日は超忙しいから無理だよ。
だいたい、別にこれ特別好きじゃないけど。」
紙袋を受け取って、中身を覗いて。
ふと、顔を上げると。
まだ机に腰掛けた姿勢を崩さないまま、食い入るように、私の顔を覗き込んでくる視線。
「なに?」
「______なんか、今日、」
可愛いね、とでも言うんだろうか。
そうでしょう、髪もメイクも理沙さんにしてもらった。
新しい化粧品を使うだけで、何となく顔を上げて歩ける。
自分もまだ女子だったと思い出した。
「あいつと同じ匂いがする。」
「なっ…!」
犬?!
その、妖艶に傾げられた瞳よりも。
言葉の端々に滲む二人の距離に。
そこから漏れる、いい香りの色気に。
「なんで赤くなんだよ。笑
あいつのとこ泊まったの?」
私は、虚しくも完敗した。