シナモンが香る、ホットワインと。
ラベンダーの、アロマキャンドル。
久しぶりの、女友達とのこんな時間に。
いやでも、高揚してしまう気持ち。
だけど、明日の瀬名ちゃんを思えば絶対に早寝したほうがいいに決まっていて。
自分への戒めのためにも、この二つを枕元にスタンバイさせた。
「あ、シナモンの香りだ。笑」
『え?なに?』
「ううん、シナモンにまつわるチョコさんの怪奇話があるんですよ。
それ思い出しちゃった。」
『チョコが?怪奇?
なんかもうそれだけでウケるね。』
「うん。チョコさん、アップルパイに取り憑かれたことがあって。笑」
私たち二人が放つ、ローズの香りは苦手でも。
揺れるキャンドルの灯りが珍しいのか、レオンは少し離れた場所からじっと立ちすくんでこちらを見てた。
『おいで。』
声をかけると、カチャカチャと爪音を立てながら真っ直ぐ私に向かってくる。
毛布を持ち上げると。
おとなしく、脇の下に潜り込んできた。
「その犬、七瀬くんの犬だったんですねぇ。」
『うん、すぐ迎えに来るって言ったくせに全然来ないけど。』
「七瀬くんが迎えに来たいのは、レオンくんより理沙さんのほうだと思うけどなぁ。」
『…なに?さり気にぶっ込んできたね。』
レオンの小ささがあったかい。
「今日はね、いろいろ話したかったんです。
いつも私のことばっかり、聞いてもらってるから。」
相変わらず、瀬名ちゃんは私の感情を引き出すのが上手で。
翔さんのこと、要くんのこと。
私は溢れて散らばってしまっていた感情を、一つ一つ片付けるように。
決して上手くはない表現で、言葉を紡ぎ始めていた。
月明かりが漏れる部屋で、揺れるキャンドルの炎を眺めれば。
不思議と、心はどんどん解ける。
「なんか、大詰めって感じですねぇ。
ニューヨークに行くかも、迷ってるんだ。」
『うん。ちょうど仕事の分岐点的な感じもあったからね。
思い切って、来週から一週間休みも取ってみた。』
「え!休めたんですか?!理沙さんが?!」
『いや、かなり無理くりだよ。
一週間分の売り上げ前倒ししろとか言われて、無計画に返事しちゃっただけ。』
「…大丈夫?」
『うん、御社のシャチョーさんに縋るから。』
弾けたように笑い出した瀬名ちゃんに。
レオンが不思議そうに、私を見上げた。