返事の代わりに、欠伸をしながら。
手元は高速で、画面をタップしてる。
よし、と呟いて携帯を放ったと思うと。
チ「こんなに飲んで帰ったら、怖がるんだよ。」
這いながらソファに戻ってきて。
なぜか、その口元は満足そうににやけている。
航「そうなの?匂い?酒臭いとか?」
チ「まぁ、いろいろじゃない?俺も、あんま気回らなくなるし。」
それは、気を回す必要がある生き物。
チ「こっちは、可愛いなぁって思ってやってることでも。相手は怖いと思うことがあるんだよ。そういう加減に、俺が鈍くなるから。」
怖がらせては、いけない相手。
航「・・・ごめん、全然意味わかんねぇ。それ何の話してんの?」
子犬は、一瞬ぽかんと目を丸くした後。
チ「理沙は大変だね。」
そう言って、おもしろそうに微笑んだ。
チョコの飼ってる生き物は、未だ正体不明だけど。
きっと、この子犬に負けず劣らず、愛すべき存在なんだろう。
目を閉じて大人しくなったのを、見て。
リビングの電気を消したら、声をかけられた。
チ「航さん、そこのコンビニの袋。今日のお土産。」
航「コンビニ?・・・ああ、これ。」
つまみ上げた白いビニール袋には。
航「・・・!」
沖縄のとある箇所と電話番号を指し示す、紙切れと。
蜂蜜レモンの、のど飴。
“がんばったな”
“だって、航さん明日オフじゃん”
深夜に訪れた、全てがつながって。
心臓が、早鐘で走り出す。
情けなく震えそうになる手を、握りしめる。
もう、二度と。
手放せない。
この紙切れが綴る、過去の向こうにあるもの。
焼き尽くされるほど焦がれても、まだ足りない。
もうこれしか、欲しくないと思う唯一無二の人。
どれだけ飲んで、どれだけ合わせて、手に入れたのか。
だけど、それをコンビニで買えるのど飴と同等に扱う、器のデカさ。
チ「航さん、ろうか、まぶしい・・・」
航「ごめん______________ありがとう。」
リビングのドアを閉めて。
すぐに携帯を取り出して、朝一の便を探す。
あの人が、沖縄へ向かった理由。
もう、きっと今なら。
あの人は、俺を手放す。