お店を出て、いつものように別々にタクシーを拾おうとしたら。
直生さんが珍しく「送る♡」と一台のタクシーを止めた。
走り出した車の中で、彼女になのか酒になのか。ぼうっと酔った頭でバックシートにもたれていると、直生さんが話しかけてきた。
「いい子でしょ、理沙ちゃん。ナンバーワンなだけあるよなぁ。」
ああ。あの子ナンバーワンなのか。
甘い痺れが、また胸に広がる。
「って、俺もまだ二回目なんだけどね。
前回、倫さんに連れてきてもらったんだ。あの倫さんが、倫くん呼ばわりされてた。笑」
倫くんか・・・あの声で。
たまんねぇな。
にやける口元を、ヒゲを触るようにして隠した。
「チョコと・・・航は。」
チョコと航も?
「航は、よく会ってるみたいよ。」
・・・ああ、これか。
直生さんが今日は同じタクシーに誘った理由。
航に、彼女以外に誰かがいることはメンバー全員気づいていた。
その思いが、日に日に色濃くなっていることも。
「・・・ありがとうございました。」
いろんな意味を込めて、俺はやっと呟いた。
いーえ、と直生さんはかすかに笑い、もう話しかけて来なかった。
教えていただいて、ありがとうございました。
だけど、何となく気づいていたのかもしれない。
彼女の香りは、俺のよく知る香りだった。
航と、同じ香水。
この世界には、分かってはいても、やめられないこともある。