陽斗くんを見て。

レオンは、異常事態を起こした。




リビングから、私ではなく真っ直ぐ陽斗くんに突進してきて。
狂ったように、くるくると陽斗くんの周りを回り続ける。

目が回ったのか、はぁはぁと千鳥足になると。
今度はごろんとお腹を見せて、陽斗くんに甘えた。






「やばい、めちゃくちゃ可愛いんだけど。」


スーツに付く毛も気にせずに。

そう言って、小さなレオンを抱き上げ笑う横顔に。
来てくれて、本当によかったと思った。








本当は、リビングに一緒にいて欲しかったけど。



「理沙も、それだと話しにくいだろ。」


レオンを抱いたままそう言って、廊下に出ようとする。

ほんの僅かに、唇を噛んだ私に。



「大丈夫。何かあったら、すぐ呼んで。」



触れなくても、十分。

柔らかい視線に抱かれて。
締まっていた喉が、緩む。





『じゃあ、寝室。こっちで待ってて。』


リビングの奥の、寝室のドアを開けた。

陽斗くんの腕の中から、尻尾を振ったまま不思議そうに私を見上げるレオンに。


『よかったね。』


そう声をかけて、ドアを閉めた。












この薄いドアの向こうに、陽斗くんがちゃんといると思うと。
不思議と、深く息が吸える気がして。



『そこの椅子に座って。』


翔さんの顔を見ずに、声をかける。


「これ。好きだったろ。」


差し出された紙袋は、マスカット色と白のストライプ。


『・・・いらない。もう、自分で買えるよ。』

「いいから。食えよ。」

『たった今、嫌いになった。それより話って、なに?もう10分始まってるよ。』



頑なに、手を差し出さなければ。
もう何も言わずに、アンティークのダイニングテーブルにそれを置いた。

視界の端で、盗み見た顔は。
少し、笑っていた。





この人は、少し。

年を、とった。















差し出された、小さな封筒。

嫌な予感がして、私は受け取ってすぐ、それをダイニングの上に置く。


「見ないのか?」

『必要ないと思うから。話は聞くから、早く話して帰って。』









あの、小さな封筒の中身は。

きっと私を、沸騰させる。
















そして、私は。

きっと。












また、泣くんだ。