黙っている私に、次の言葉を浴びせようと口を開いて。

ふっ、と翔さんの視線が私の背後に泳いだ。





ああ、陽斗くんがいたんだ、と私が思ったのと。

会釈のために余所行きに落ち着けた瞳を。
翔さんが大きく見開いて、息を飲んだのと。


足元がグラつくくらい、私の肩が大きく右側に抱き寄せられたのは。

どれも狂いなく同時だった。














「理沙、どうした?」


陽斗くんのくすぐるように囁く声の熱さに、私の右耳は一瞬で燃えあがる。



『・・・んっ・・!』

「誰?知り合い?」



思わず、その息の熱さに身を捩るのに。
彼の左腕は私の肩を逃がさない。


答えるから、この腕の力を少し手加減してほしい。
そう思うのに、ますます強くなる力に息苦しささえ覚える。









似たような光景を見たことがある、と思った。

あれは、連れて行かれたクラブで。
幼稚な罠にかかった私を、陽斗くんは連れて帰ると言って。

狭いエレベーターの中、振り返る男の目を煽るように。
私を抱き寄せて、自分の存在を見せつけた。

















今、煽られる男が翔さんで。

陽斗くんから立ち上がる嫉妬心と独占欲は、あの時より色濃い。






そして、私は気づいてる。

あの夜と違って、陽斗くんが己の嫉妬心と独占欲を見せつけようとしてる相手。

それは、翔さんだけじゃない。






__________________私、だ。















小さい頃ママのお店でよく流れていた歌。

こんな危険なシチュエーションが、本当にあるのかな?と大人の世界にドキドキした。







陽斗くんの腕の中で。相変わらず、事態を掴めていない翔さんの顔を見上げていたら。

よく似たフレーズが、呑気に浮かんだ。






「青木翔と申します。」「要陽斗です。」



翔さんの名乗りに被せるような、強い口調には。

尖った敵意だけで、甘さなんて一欠片もない。
















張り詰めた夜の空気の中で、集う心中は三者三様。

それでも動作は違わずして、一様に、誰も動かない。








ごくり、と。

喉を滑った生温かさが鳴った。










三人模様の、絶対絶命。