右半身が熱い。
繋いだ手だけじゃなくて、右側全部がじりじりと熱い。
『寝ていい?』
赤信号で、ゆっくりと車が停まって。
たまらず、シートに身を落として。軽く、目を閉じた。
寝れないなんてこと、分かってて。
「もちろん。」
大きな柔らかい左手が私の右手を離したと思ったら。
「倒すよ。」
すでに静かな声がすぐ耳近くで聞こえて、もたれたシートが少しだけ後ろに沈んだ。
なんて、柔らかくて。
くすぐったい、動作なんだろう。
慣れているようにも感じさせる、この仕草が。
私はちっとも、嫌いじゃない。
陽斗くんが、今までの人生で得てきた優しさや、大事な人を大事にする方法を。
全部かき集めて、私に差し出してくれるなら。
それは、少し切ないけど。
その倍、温かくて愛しい。
残念ながら、子供じゃないから。
私たちは、それぞれを重ねたうえで出会ったのだから。
相手を傷つけない手段や方法を。
私は陽斗くんの前で選択しようとしたことがあるのかな。
私は、たぶんこの人に。
与えられて、ばっかりだ。
私は、陽斗くんの“嬉しい”を。
嬉しいと、思ったことがあるのかな。
ふいに、つんとなった鼻奥と。
彼の香りが降ってきたのは同時だった。
上質な布が滑るように肩を包む、この感触。
ますますギュッと瞳を瞑ったのに、これは陽斗くんのジャケットだと泣きたいくらいに分かった。
ゆるゆると、ひたすら四肢を広げたくなる航大の隣と違って。
私は陽斗くんの隣にいると、初めて知る自分にひたすら戸惑う。
恥ずかしくて、くすぐったくて、もどかしくて。
安心な場所だったここには
いつの間にか、切なさばかりが増えた。
この切なさが
いつからか悲しい足音を引き連れているのにも気づいていて。
その足音がする方向は、振り向けばもう分かりそうなのに。
ずるい私は、まだ気づかないふりをする。
最果てに辿り着きそうな指先を。
臆病者は、握りしめる。
滑るように流れる車内で
図ったように、私に戻ってきた大きな左手は。
もう無理に、深く絡むことはなくて。
ただ、そっと私の手の甲を。
温かく、包んでいた。