なんで、こんな日に限って。
「今日は、地元の友達の結婚式だったんだ。せっかくオフだし、できれば理沙にも会いたくて。
酒我慢して、車にした甲斐があったよ。笑」
そんな精悍な、スーツ姿で現れるんだろう。
30手前、にして。
今さら、スーツ男子に萌えるなんてないけど。
彼のこれは、特別。
そう思わせてしまうほど、真っ直ぐしていて綺麗だった。
普段のカジュアルな雰囲気との、ギャップのせいもあるのかもしれないけど。
自然に下ろした前髪の下で。
いつも通り、惜しみなく溢す蕩ける笑顔には。
私は安心していいのか、ざわついていいのか、ちっとも分からなかった。
「まじで!今、レオンいるの?」
『うん。陽斗くんもレオン知ってたんだ。』
航大から犬を預かってる、と告げると。
思わぬ、好反応。
「可愛かったからなぁ、レオン。」と。
ますます柔らかく、瞳を細めた。
「そっか、航大は返してもらえたんだね。」
妙に静かな、その響きに。
『え?』
違和感を感じて、見上げると。
「なんでもない。」
私を見ずに前を向いたまま、微笑んだ。
『会ってく?レオンに。』
深く考えずに、思わず言葉が出た。
「え、いいの?」
『うん。最近、航大も来れてないから。
私とずうっと二人きりで、寂しいと思うし。知り合いなら喜ぶよ。』
「いや、違くて。」
左に出したウィンカーの音が、車内に響く。
私が乗るときはいつも、陽斗くんの車には音楽がかかっていない。
「こんな時間に俺を部屋へ上げて、大丈夫かってこと。」
『・・・!』
暗い車内で、前の大きなトラックのテールランプを受ける横顔に。
息が、つまった。
「あっは。笑
ごめん、冗談だよ。」
『・・・もう、上げない。』
「キスしかしないって。」
『なっ・・・!』
「嘘だよ。笑」
耳が、熱い。
なんで、こんな日に限って。
初めて、許可なく私の右手を握ったりするんだろう。
「可愛いな。」
はにかみを含む、甘い声色とは裏腹に。
器用に、固まった私の手の平を解いて。
深い深い、“恋人つなぎ”へと導いていく。