『彼氏、年下なんだ?』
「・・・はい。
あ、彼氏いること自体、オフレコでお願いしますね。」
『分かった、ここ出たらすぐ忘れるよ。』
「え、聞いたからには相談乗って欲しいし、忘れたらダメです。」
『分かった。笑
けど、念のため再確認しとくけど、私あの二人と何もないからね。私もまだまだ、仕事がんばらないといけないのはアヤちゃんと一緒。』
「そういう相手がいる、ってだけでもいいんですよ。
私、あと何年一人で生きていくんだろうって思いますもん。」
保証のない、相手。
そんなの誰だって一緒だと思う。
私だって、仮に今後あの二人のどちらかと付き合ったとして。
その後を陽斗くんや航大がどう考えてるかなんて知らないし。
聞いておきたいなんて、思わない。
聞いても、刹那的な感情に意味はないと思うから。
約束は、果たさないといけないもので。
果たさないといけないものを抱える関係なんて、悲しい。
だからこそ、私は。
陽斗くんの匂わせる未来が怖いんだと思う。
期待したくないし、させたくもない。
翔さんが消えたあの朝、決めたこと。
もう誰にも。
期待するような生き方はしない。
アヤちゃんが、ロッカーの扉についてる小さな鏡の前でさり気なく振り返って。
裸の背中を確認してるのが、目に入った。
さっと、赤くなる頬と。
きっと、その熱さを思い出して。
ふんわり、優しくなる瞳。
会ったこともないアヤちゃんの彼に対して、適当なことは言わないけど。
ただ、今のアヤちゃんに思うことは。
無数に散った花弁は、赤の濃さが違う。
夜を変えて、何度も何度も重ねている証拠。
消えないように、何度も何度もアヤちゃんに。
自分の痕を、残している証拠。
それって、なかなか。
『なかなか、だよ。』
「なにが?」
仕事は終わったはずなのに、今さらサンローランのヴォリュプテを取り出して鏡を覗く。
唇型のアプリケーターから滴る、甘いピンク色のオイル。
ふいに、もうすぐ私を迎えに来る
形のいい唇の持ち主が浮かんで。
私も慌てて、ポーチを取り出した。