あの入りが嘘のように。
引きは一斉にやって来て、0:00を過ぎる頃には嘘のようにフロアが涼しくなった。
葵ちゃんは、「あんたの執念ね。」なんて目を細くしたけど。
『アヤちゃん、今日ごめん!本当助かった。』
私よりも遅く事務所に上がってきたアヤちゃんに。
さらに申し訳なくて、声をかける。
「え、なにが?」
『いや・・・今日、私のとこばっかお願いしてごめんね。』
またアヤか~!と冗談めいた声に。
鉄壁の笑顔で、対応してくれた。
私に待ちくたびれた、アヤは呼んでない!という反応にも。
顔色一つ変えず、対応していた。
「いやいや、仕事なんで。」
嫌な気はなく、心からそう思ってる表情。
大胆にドレスを脱ぎ落として、下着だけでロッカーまで歩く。
最近、ほんと綺麗になったよなぁ。
ぼうっと見入ってると、背中にたくさんの赤い花弁が散っているのが目に入った。
ずいぶん。
独占欲の強い、相手なんだなぁ。
だけど、きっとあの力強さ、が。
アヤちゃんが艶やかになった理由。
「理沙さん、チーママの話断ったんでしょ?」
『断ってないよ、考えときますって言っただけ。てか、なんで知ってんの?』
「あたしは理沙さんのこと、何でも知ってるんです♡
なんか、断ったなんて余裕があっていいなぁって思っちゃった。あたしはまだまだ、仕事がんばらないと。他の仕事出来る気もしないし。」
『余裕?ないない。私も今さら他の仕事は無理だな~。』
「理沙さんのとこは、もういい年じゃん。」
『ちょっと待ってよ、私たち一個差でしょーが。』
思わず声が大きくなった私を、ちらっと一瞥して。
アヤちゃんは、小さくため息をつく。
「理沙さんの話じゃないですよ。
陽斗にしても、航大にしても、もうそろそろ30代でしょ?
なんとなくこの先、見えてるじゃないですか。」
その台詞には、たくさんの反論が浮かぶけど。
何となく、ぼんやり。
アヤちゃんの抱えるものが、見えてくる。