カウンターに上がると。
客席フロア同様の、テンテコマイ。



『ねぇ、増田さん何時まで?
篠山さん来るって言ってるけど。VIP空くかな?』


保留にした子機を持ち上げて、通りすぎるボーイくんに声をかける。


「増田さんは、・・・あ、はい、21:30からなら大丈夫です。」

『じゃあ、7人ね。』




頷いてインカムを口に寄せるボーイくんを横目に、大丈夫です!♡と、受話器を耳に戻すと。



葵「ていうか、何で理沙を上にあげてないの?!一回あげろって言ったでしょ?!」



葵ちゃんがプリプリしながらVIPルームへと続く階段から下りてくる。

ボーイくんが困った顔で私を見る。


そうだよね、私何回も呼ばれたもんね。
立たなかったのは、私だ。







『私まだ行けない、瀬崎さん卓でルイ入ったんだよ。アヤちゃんあげてくれない?増田さんの連れに気に入られてる。』

葵「アヤも今日はあんたに振り回されて大変よ・・・!」



舌打ちしながら、インカムに口を寄せてフロアを睨む。


アヤちゃんには、申し訳ないけど。
あの子は機転の利く子だから大丈夫。




『ねぇ、あと10分くらいしたらもっかい呼んでくれない?増田さん、お見送りする。』


ホルターネックのリボンの締まり具合を確認しながら、店長に声をかけて。



頷いたのを確認して、客席に戻るため急ぐ。

入れ替わりに、また鳴り始める電話。










今日、すごいな__________



そう、思って階段の手すりに手を滑らせ_____











ようと、したら。








「理沙さん、お電話です。」


『おお~~。汗』





思いっきり、後ろ髪を引かれて。

ドレスの裾を踏まないように持ち上げたまま、本日何度目のカウンターに戻った。







溢れそうになったため息をグッと飲み込んで、受話器に耳を充てる。




『はい♡お電話代わりました、』

「ごめん、すげぇ忙しそうだね。」









一瞬で、私の意識を飛ばす


この、声。








「今から、六本木に戻るから。帰る前に、どうしても確認したくて。」




騒がしい背景のせいで、彼の声が遠い。

耳を澄ましてしまう。




彼の発声に


もう、痺れてる。










「時間が合うなら、迎えに行きたいんだ。 今日は、俺が連れて帰りたい。」