#直生side
エレベーターの扉が開いて、彼女がいて。
“やった”
そう降った自分の反応で、やっと気づいた。
あの花火の夜から
俺は瀬名さんが好きだ。
早朝ロケで、眠たそうなスタッフの中で真剣な顔で頷いてるとか。
正午をとっくに過ぎた社食で、一人嬉しそうに何か頬張っているとか。
終電間際のフロアで、欠伸をしながらも帰らないとか。
思い返せば、日常の些細な姿ばかり浮かんで。
それだけ、彼女の日常を追ってきたんだと気づかされる。
好きだ、と気づいてしまったら。
目の前に立つ、乱れた一つ結びも
親指を中に入れて握りしめてる右手も。
何もかもが愛しくなってきて、焦った。
彼氏とか、デートとか。
あの状況で、あの頭で。
よく確認できたなと我ながら感心する。
初めて、人にそばにいて欲しいと願った。
どうしても、俺を選んで欲しいし。
選ばせたことを、後悔させない。
何の気なく積み重ねた日常の中で。
彼女の笑顔は、色を変えて蘇る。
次は、絶対飲ませすぎないようにしないと。
そう思いながら、エンジンをかけてサングラスとメガネを掛け替える。
ゆっくり、じっくりなんて。
もうできる自信がない。
一日も早く
一日も長く
そばで、生きたい。
首都高を流れながら、たくさんの彼女の姿が浮かぶけど。
俺の隣で、花火を見上げた横顔が蘇ると
胸が、痛いほどに甘く締まった。