結局、あの後は4組の来店。
賭けに勝った私は、お気に入りの隠れ家バーのソファ席で。
ご機嫌でクッションを抱きしめ、葵ちゃんと向き合う。
私はグラスホッパー。
運転手の葵ちゃんは、ノンアルコールのサングリア。
自家製オリーブに、チーズとドライフルーツ。
久しぶりだなぁ、こんな女子な感じで二人で飲むのも。
「で、結局どれと“いたした”の?」
『いたした?どれって、何?』
意味わかんないんだけど、と続けながら。
ドライフィグを摘んだ。
「水臭いわね、はっきり言いなさいよ。
七瀬くん、陽斗くん、翔さんの、どれってこと!」
なる、ほど。
いたす、って。それか。
不機嫌の理由も、それか。
『葵ちゃん、朗報。私、どれともしてないよ。』
「朝まで勤しみました♡的な気だるい顔で出勤して来て何言ってんのよ・・・。
もう、陽斗くんなら陽斗くんって、ちゃんと言ってよ。微妙に諦められないじゃないっ・・・!」
微妙って。諦められないって。
しょっぱくなりたくて、次はブルーチーズを摘む。
『まじだよ。私、本当に、“してない”。翔さんにいたっては、“何もしてない”。
てか、翔さんにうち教えたでしょ。大変だったんだからねー?』
うまく、切り返したつもりだったのに。
「あんた・・・“何も”って何よ!?あたしの陽斗くんとナニしたのよ!!」
『ちょっ・・・!葵ちゃん、声デカい!』
慌てて、クッションを押し付けると。
男の力ではね退けて顔を出した葵ちゃんの目は、リアルに潤んでいて。
ちょっと、笑えた。
「お願い。あたしのためだと思うなら、本当に全部を話して。」
『まじすぎて、怖いんだけど。てかさ、自分彼氏いるじゃん。』
「陽斗くんのためなら、別れてもいいと思ってる。」
『だから、まじすぎて怖いって。』
思えば、この夏ハワイで受けた告白から。
葵ちゃんには、ほとんど何も話してなかった。
昔は、一喜一憂何でも話していたのに。
大人になるって、こういうことなのかな。
秘密や、憂いが増えていく。
『大きな声、出さないでよ?』
念には念を、十分押して。
声を潜めて、打ち明ける。
こんなガールズトークも久しぶりだなぁと、甘いグラスホッパーを一口含んで。