月曜の夜。
もともと、週初めからお店が繁盛することはそうないけど。
今日は、特にお客さんの引きが早くて。
0:00を前にして、ほとんどの女の子が上がっていった。
『私も、もう上がろうかなぁ?』
カウンターで、甘えた声を出してみるけど。
店長は、ワインリストを整理しながら、顔色一つ変えずに首を振るだけ。
結局、昨夜は朝方まで航大がいて。
そのまま仕事に向かう背中を見送って。
いつもどおりローズのシャワーを浴びたのに、なぜかその後もなかなか寝付けなかった。
私は熱を持った身体を、一人持て余して。お昼過ぎまで、何度も寝返りを打たせた。
だからこそ、今夜は。
じっとりと憂いに満ちまくった視線を投げてくる葵ちゃんが、重たくって仕方ない。
『なんかさ、私に言いたいことあるの?』
「ないと言ったら、嘘になるわね。」
『めんどくせぇな。何?はっきり言ってよ。』
私だって、言いたいことあるし。
翔さんに私の家を教えたのは。
絶対、こいつ。
「ここで話していいわけ?あんたが、恥かくわよ。」
『!!あったま来た!!怒
いーよ、どうせ暇だから!』
「理沙、そこまで。暇なら営業しろ。」
つるの声ならぬ、神の声ならぬ、店長様の声。
葵ちゃんは踵を返して、人もまばらなフロアに戻り。
私も、大人しく椅子に着席して携帯を取り出す。
葵ちゃんの、あの態度。
久々、なめてる。
呼んでやる・・・この時間から5組くらい同時に呼んで、てんてこ舞いにしてやる!!
血走った目で画面を開くと、AOIからのLINEのメッセージ通知。
AOI: “かりかりしてんじゃないわよ、飲み行こ。送る。”
急速に、冷却されていく怒り。
葵ちゃんは、私にとって年の離れすぎた兄貴であり、姉貴でもあるから。
“感じ悪すぎだろ。奢りなら行く。”
世界でたった一人の、兄弟喧嘩ができる相手。
AOI: “今から3組、呼べたらね。”
私にできる無理難題しか、よこさない相手。
“おっす、兄貴!!”
きいっと目を剥いて仰け反る葵ちゃんを横目に、足を組み直して携帯を耳に充てた。