いつ会っても、春を思わせる人。

伏せた瞳を縁取る睫毛が瞬くと、やっぱり理沙子が浮かんだ。




「忘れられたかと思ってた。」

「先月来たのに?」

「一ヶ月って、長いじゃない。」


子供のように頬を膨らませて、長い髪を左肩に寄せる。
一つ一つの仕草に付きまとう色気が、彼女の才能。



彼女といると、そこら中から視線を集める。
どんなに場所が変わっても、昔から変わらない感覚だな、と思ってると。


「みんな倫くんのこと見てるね。」


どこか嬉しそうに耳打ちしてきたから、思わず口元が砕けた。

敵わないな、本当に。









「翔くん、帰って来るんでしょう。」

「あ、連絡来た?」

「うん。超他人行儀に、“ご無沙汰しています”なんて言うから、間違い電話のふりして切ってやった。」

「まじか!さすが。笑」



何か言いかけて、代わりに琥珀色の透き通った液体を細い喉に流し込んだ。



「理沙に断わられたよ、三人で会おうって言ったら。」

「ありがとう。じゃあ、もうだめね。」



瓜二つの母娘。
分かっていただろうに。少し残念そうに、首を傾げた。



「処女作がヒットしすぎると。なかなか次に行けないじゃない。」










理沙子の人生における、処女作。

思い入れが強すぎる分だけ、縋らずにはいられない。

本当はまだ
知らないことばかりなのに。







「だけど。やっぱり処女作を超えられるかどうかが、女の力量なのよね。」




きっとこの人もそうやって。

偉大な誰かを、超えてきた。