わざと、細く開いたメニューに顔を突っ込んで
。隣から覗けないようにコソコソ見てやった。

これじゃ、私も全然見えないけど。



「ねぇねぇ、理沙ちゃん。」


無視。

航大の好きな穴子の天ぷらなんて。
絶対、頼んでやらない。




瞬間、ふわっと近くなった香りと。

耳元で甘く弾けた囁き。







「キスしていい?」







・・・!!



バンっと。

緩んだ両手から、メニューは音を立てて後ろに倒れた。

綺麗にオープンした、本日のおすすめ海鮮コーナー。





「どーも。笑」


ふわっと。

少し冷えていた肩に、航大の香りとシャツが降ってきた。



見上げれば、なんてことないような顔で頬杖をついてメニューを覗き込む横顔。



「あ、真牡蠣。」



いつもと変わらない、扱いや仕草に。
違和感たっぷりの熱や甘さを散りばめて。

シーソーの両極をコロコロ流れてしまうボールみたいな私を、簡単に自分へ引き寄せる。





時に切なくて。

時に振り回されて。

あらゆる感情を揺さぶられる目眩に

私は必死でしがみつく。










膝の上に置いていた右手を、テーブル下でキュッと握られた。



『ちょっ・・・!』

「チョコ来るまでだから。」




蟻地獄は、動けば動くほど沈んでいく。


顔色一つ変えない涼しい横顔に。

諦めて、指を絡めさせる。