意を決して。
ドリンクを差し出しながら、何てことないように話しかけた。
「嵐、お前彼女いる?」
今まで、そんな踏み入ったことを聞いたことはなかったから、当然なんだけど。
靴紐を解いていた手を止めて、訝しげに顔を上げる。
「・・・なんすか?」
「いや、いるのかなぁと思って。」
がやがやと、スタジオを出て行く先輩メンバーたち。
ちらっとそっちに視線を投げて、小さな声で応える。
「いますよ。建前的には、いませんけど。」
「まじで。じゃあ、建前のほう、採用していい?」
「え?」
航さんとの約束どおり、もう一度電話をかけようと。
収録後にタップした画面は、すでに10回近くの折り返し履歴で埋まっていた。
相変わらず個性を爆発させる、“あの人の友達”から出された条件。
まさかの、「STAR'sの嵐くんと飲みたい!」だった。
口止めされている、あの人の行方も。
「チョコと嵐くんが来てくれるなら、話せるかも♡」しれないらしい。
話させる、絶対に。
「えー。俺、そういうの苦手なんすけど。」
「頼むよ、後輩。」
「うーん・・・。大丈夫なんすよね?その人。」
「うん、大丈夫。」
守るよ。
俺だって、もうヘマはできないし。
小さなため息をついて。
嵐はやっと、ドリンクを受け取った。