今夜はやけに甘えるレオンを抱いたまま、バスルームのドアを開けると。
急に腕の中で暴れ出す。
『あ、ごめんごめん。』
床に下ろした瞬間、慌ててリビングへ逃げて行く小さな背中。
人間の数万倍、もあるらしい犬の嗅覚。
どうも、ロクシタンのローズの香りが苦手みたいで、バスルームとお風呂あがりの私には近づこうとしない。
お湯を溜めてる間に、スチーマーのセットをしようとリビングへ戻ると。
ハチのぬいぐるみで一人遊びしていたレオンが、その動きを止めてじっと私を見上げる。
『ごめんね、そんなに嫌なのに変えてあげられなくて。』
背中を撫でると、パタパタと尻尾の揺れだけ再開した。
あの、濃いローズの香りに包まれないと眠れない癖がついてしまった。
寝つきの悪い私を。いとも簡単に甘い微睡みへ誘う、ローズの花びら。
何本も何本もリピートしてる間に。
すっかり、私の体の一部になった。
香りが、そうなったのか。
彼の気配が、そうなったのか。
そういえば、私たちの香りが一緒になったのは。
いつの、どちらからだったのか。
お湯が溜まった合図の音に、はっとして立ち上がる。
この時間は行き場のない疑念をぐるぐると、呼び起こす。
ピアスとシャネルのネックレスを首から外せば。
早くも、バスルームから身体を迎えに来る
ローズの香り。