部屋に入って、焦れるようにタップしたその番号は。

呼び鈴だけ聞かせて、彼に繋いではくれなかった。


もう、こんな時間だし。
寝てても全然おかしくない。

諦めて切断し、床にiPhoneを置いた。



『おいで。』



膝に登ろうとするレオンを抱き上げると、カタカタと床で震え出す。

覗き込んだ画面が表示する発信者に。
慌てて、拾い上げた。






『もしもしっ・・・、ごめんね、いま大丈夫だった?』

“いや、こっちこそごめん。全然大丈夫だよ。
出ようと思ったんだけど、ギリギリ間にあわなかった。”



“剛田 陽”からの着信で熱くなる携帯を。
床に座り込んだまま、握り締める。



“お疲れさま。もう家?”



騒つく背景の音に。陽斗くんはまだ外にいるんだな、と胸が鳴いた。






『今日ね、帰りの車の中で陽斗くんの歌聞いたんだよ。』

“まじで?なんていう歌か・・・分かる?笑”

『分かんない。笑
けど、すごく好きだなと思って。』

“それで、電話くれたの?”

『すいません、しょうもない用で。』

“いやいや。すげぇ、嬉しい。”




さらに柔らかくなった声に、明日ボーイくんに曲名を聞いてみようと思いつく。

もっとちゃんと。

感想を、陽斗くんに伝えたい。






“理沙、最近うち来てる?”

『え?』

“来てない、よな。
実はここ二週間くらい、家帰れてなくてさ。来いとか言っといて、一人にしてたら申し訳ないなと思って。”

『え?!どこで何してるの?!』




言い方、と陽斗くんは笑って。

今している仕事の内容、移動時間でさえも惜しい状況、だけどゾクゾクするほど楽しい、早く理沙に聞かせたい、と。

近況をダイジェストしてくれた。




『ごめん、そんな忙しいときに。』

こんな、アホみたいな電話して。



“いやいや。助かったよ。”

『え?』

“これでまた、ちゃんと歌える。”