剛田大からの着信に。
左の頬と肩でiPhoneを挟んで、ドレスを脱いだ。
“俺。”
『で?』
“もう家?”
『まだ。いま仕事終わったもん。』
“そっか。今から行く。
マンションの下着いたら連絡するから、駐車場開けて。”
『今日は無理。まじ疲れてるから。』
背中のホックが上手く下がらなくて。
泣きそうな顔でもぞもぞしてるアヤちゃんの背中を、一気に露わにした。
“俺も今日は無理。理沙が譲って。”
『おめーの何が無理なんだよ。大した用じゃないでしょ?』
焦る。
この、送りの車に間に合うかどうかの死闘の時間に。こんな甘えた声で電話かけてきて。
“今日逃したら、また二週間空くんだよ。”
一瞬、髪をとく手が止まった。
“少しでいいから、降りて来て。”
ざわつく背景の音に。
この男もまだ、外にいたんだと気づく。
“大した用”の判断基準は、個々で違うはずなのに。
『・・・すぐ帰ってよ。』
“分かったって。笑”
一瞬、私たちのその基準は寸分の狂いもなく重なってしまった気がして。
「理沙さん、車出ますよ!」
大きな手とか、彫刻みたいだった背中とか。
片側だけ上げる口元と、愛しそうに私を見下ろした瞳。
何度でもフラッシュバックしては
意識を奪う。
『アヤちゃん、体はって止めといて。』
「もー!この時間にかかってくる電話って、大概ロクでもないですよね!」
事務所を飛び出て、カンカンと高いヒールで階段を駆け下りていく音が聞こえる。
ロクでもない。
分かって、いるのに。
電話の向こうで笑う声。
息を止めて、その声に耳を澄ましたくなってしまうのは。
なんでだろう。