ほんの何時間か前。
間違って押してしまった、不正解ボタンからの果てないキスに。
私はほとほと限界を迎えていた。
一向に、“キスのその先”を探らない彼に確信と安心を覚えながらも。
上昇し続ける体温が苦しくて。
初めて私は、こういう場面での“もどかしさ”を知った。
それは、彼の優しさか。
はたまた、罠なのか。
体が痛いほど熱い。
このままじゃ、私。
おかしくなる。
逃げなきゃ、という一心でひたすら彼の固い胸を押し続けた。
どうにかこうにか、唇が離れた瞬間を捕まえて。
『教えて、踊るチョコ!』
命からがらぶっこんだ。
ぴたり、と。
止まった空間と丸く開いた彼の瞳。
我ながら、なんだそれと呆れる。この状況を脱しようと、思わず口をついた言い逃れが、それだった。
瞬殺されるかな・・・と諦めかけた瞬間。
「見たことないの?」
『あ?えっ?』
「まじで?なんで?それは見たほうがいいよ。」
仲いいんでしょ、と。
濡れた私の唇を親指で撫でて微笑む。
変わらないその甘さと、予想外の展開に。
ぶっこんだ本人が
もう、ついていけない。
「ダンスがちゃんと見れるのは、意外にMVだったりする。」
あっさりソファを立ち上がり、テレビ台の下を開けたり。
リモコンを持ったまま、隣の部屋の電気を点けに行ったり。
さっきまで、あんなぼうっとなることをしておきながら。
サクサク動き回って、私の望みに対応する彼がおもしろくて。
『切り替えはえーな。笑』
思わず呟いたら、
「え、なになに。笑
もっかい言って。」
0.1gも邪気のない笑顔で、振り返って笑った。
ごめんね、チョコ。
踊るチョコに縋るつもりだったのに。
ぴったり私を抱く背中から伝わる陽斗くんの鼓動に、急速に睡魔が襲ってきた。
もしかしたら、彼は少し歌ってたのかもしれない。
規則的なリズムで私の肩を跳ねる指先と、腕の中の狭い空間には。
何の心配も不安も見当たらなくて。
私は、テレビから聞こえる大きな音よりも。
背中から聞こえる、小さな歌声に耳をすましながら。
安心して
意識を放り出した。