顎を枕に埋めて、寝惚けた目で携帯を見てる。
女の子とLINEでもしてるんじゃないかと、薄眼で覗いたら。
隣の裸の女より没頭してるのは、モンスターのゲームだった。
視線をYouTubeの、planetに戻す。
『あーー、航かっこいー♡』
わざと、声高に口にしたのに
「イケメンだもんねー。」
そっちはそっちの光る画面から目も上げずに、棒読みの反応が返ってきた。
『あのさ。あたしイケメンだから、航のこと好きなわけじゃないんですけど。』
「へー。」
『まじだよ?ちゃんと好きになった経緯があるんだよ。』
やっと、一瞬あたしに戻った視線。
「・・・そうなの?なに?なんかあったの?」
『うん。聞きたい?』
少し、クーラーが効き過ぎてる。
肩が冷たい。
一旦布団に潜り込んで、顔だけ出して彼を見上げた。
「聞きたい。」
さっさと携帯をほっぽり出して、片肘ついて私を見下ろしている。
顔だけなら。
こいつの方がずっとタイプだ。
二年前のあの日。
理沙さんは、一年ぶりくらいの休みを取る予定だった。
何でも、親友が結婚するとかで。
その友人代表スピーチをするとかで。
正直、既にナンバーワンだった理沙さんが休みを取るのは痛手だったけど。
夜の世界で生きる理沙さんにとって、大切な数少ない友達。
学生時代からの親友の結婚式というだけあって、お店中の人が休みを快諾した。
ところが、新人だったボーイの一人がやらかした。
うっかり理沙さん指名の団体客の予約を受けてしまった。
お相手は、お店にも、理沙さんにとっても、上位に入る太客で。
ひとまず理沙さんに連絡した葵さんに
『今から行くよ。』
一言だけ言って、理沙さんは本当に出勤してきた。
結婚式は?
スピーチは?
パニクる私たちの前で、理沙さんは。
『今日私が休みだって断った人たち。全員に出勤してますって連絡して。』
一言だけそう言って、さっさと席に着いてしまった。
だけど、私と
たぶん葵さんも気づいてた。
理沙さんの目は、赤く腫れていた。
ひとしきりの繁盛の時間が過ぎた頃。
フロアに理沙さんがいないことに気づいた。
「理沙さんは?」
すれ違いざまに葵さんに聞いたら。
「連れて帰った。」
「は?誰が。」
「七瀬くん。」