生まれて初めて

息も絶え絶えになる、意を体が知る。


押し寄せる胸が灼けるような熱さと、柔らかく一つ一つの意識を取り上げられていく感覚。

合間に名前を呼ぶ声は、震えるほど甘くて。
その名前も自分のものではないかのように、ぼうっと溶けた脳みそに浮かんでは消える。



私の顎を正面から支える、彼の左手が優しく力めば。
求められる唇はおとなしく縦に開いた。







「・・・理沙、もっと。」


ほんの何時間か前には、私を他者から遠ざけるために使われていた台詞は。
今は、私をさらに近づけるためだけに使われて。


全神経が熱い彼の口内に集中する。

追われるがままに差し出す私は、どれほど滑稽なんだろう。






『くるしっ・・・、』


やっと掴めた合間に、彼の胸を押して訴えた。

このままだと私。
体にも脳みそにも、酸素が足りない。


「大丈夫?」


私を覗く瞳の熱さと濡れた口元に、慌てて目を反らす。

悔しい。
なんでこの人は、ちっとも苦しそうじゃないんだろう。



『・・・キスって、こんなに長いの?』


熱くなった唇を噛んだら、苦い味が広がった。


瞬間、熱い手のひらを両頬に感じて。視線が彼の瞳に戻される。



「知らないんだな。」



彼の言う知らないが、何を指すのか。

私にはちっとも分からないけれど、きっと彼の言う何もかもを、私は彼よりも知らない。




「俺が、教える。」




囁くように舞った言葉は、低く甘く散って。

再開されたキスは
思考ごと、私をまた奪っていく。







ただ一つ、確かなことは。



こんなに、追われて
こんなに、差し出すキスを。



私は今日まで、

知らない。