この部屋は、時間が止まっているかのように静か。

半端に閉じ切れていない大きなカーテン。
その隙間から覗く黒い窓ガラスに。少しだけ映りこむ、ソファに並ぶ私たち。

あのカーテンの奥が気になる。
きっと、目の覚めるような星屑が隠されてる。





冷めたコーヒーの柔らかさに、ゆっくり唇をつけていると。


「腹減ってない?近くに、めちゃくちゃ美味い
天丼屋があるの知ってる?」


陽斗くんが、テーブルに置いていた車のキーを手にしながら立ち上がった。


「そこ行って、なんか食って、それから送って行くよ。」

『え?もう?』

「え?」


本日二度目の。

微妙にずれて、重なる反応。


だって、この部屋に来てから。まだほんの15分くらいしか、経ってない。

もう、いいの?
もう、話は全部終わったの?

純粋に、ものすごく疑問で。



「あ、や・・・。
とりあえず、ゆっくりしたかった話は終わったから。」



驚いたように話す表情を見て。

ああ、この人ならあり得るな。
と、納得した。


話したかったことは、以上。
だから、次の場所に移るためこの部屋を出て行く。
何とも分かりやすくて正しい、彼の思考。


と、同時に。
私、何を予感してたのか。
何を、期待してたのか。

不覚にも、頬が音を立てて赤く染まった。



慌てて、立ったまま私を見下ろす陽斗くんから
視線を逸らす。

まずい。
またしても、間違ったボタンを押すところだった・・・。汗








『そだね、そういえばお腹へったか、』







瞬間、私の右側に降ってきた彼の左腕。


私の手からテーブルへ戻ろうとしたコーヒーカップは。
その小さな水面を揺らして、行き場を無くして戸惑う。


顔を上げれば、すぐそこまで降りて来ていた彼の顔。
私は見事に、立ち上がる寸前を真正面から阻まれる。

ソファの背もたれまでの短い距離を、いとも簡単に追い詰められる。










「やっぱりもう少しこうしてたい。」







冷ややかなほど熱を持った瞳と、鼓膜を狂わすほどの甘い音色に

息が、止まる。






間違ったボタンは、

既に押されていたことを、知る。