「連れて帰るよ。」
暗い車内で、静かな声に確認されたとき。
私は首を横に触れなかった。
“送る” じゃなくて “連れて帰る” 。
甘い言葉が、意味する場所。
当たり前のように、私の右手を握ったままハンドルを切る。
横顔を見つめていると、時折合わせる視線が熱っぽく細くなる。
彼の一挙一動には、舌が焼けるほどの甘さが滲んでいて。
私は押し寄せる眩暈に負けてしまいそうになるのを。
ぐっ、とこらえていた。
エレベーターの中で“触れるだけ”だった、唇が熱い。
「理沙、俺のこと怖い?」
見覚えのある六本木の風景になった頃、信号で止まった車の中で彼は聞いた。
『え?!』
「いや、ずっと怖い顔してるから。笑
それに、」
キュッと彼が左手に力を入れると。
私の右手の中で、水っぽい感覚。
こ、これは。て、てあせ…!!汗
『ごめん!』
「いやいや、大丈夫。笑
取って食ったりしないってことだけは、約束するよ。」
慌てて離れようとする私の右手を、深い恋人繋ぎで握り直して。
「ほんと、可愛いな。」
小さく、独り言のように呟いた声の甘さに。
心臓が飛び跳ねる。
このままだと、私の脳みそは甘くとろとろに溶けきって。
耳の穴から漏れ出すんじゃないか。
怖い。
もはや、ホラーだ。