喉乾いたな。
運転手の要くんには申し訳ないけど、なんか冷たい泡が飲みたい。


要くんの姿を認めた黒服が、お辞儀をして扉を開ける。
足早に、その扉をくぐろうとした___________



______________その時。





「陽斗。」


立ち止まった要くんの歩幅に合わせて、私も振り返ると。
線が細い、背の高い男の子が立っていた。


「久し振りー。」

「ああ・・・、久し振り。」


瞬時に、要くんが纏った緊張感に気づく。

視線を移して見上げて、直感的に思う。
こういう男子、苦手。





「彼女かわいいね~!モデル?」


不躾に覗き込まれる視線を避けながらも、曖昧に会釈すると。


「理沙、先に入ってて。」


要くんが私の肩を抱いて、黒服に頷いた。









遠慮なく入った小さな部屋。

ダムダムと鳴り響く振動が、壁とガラスに反動する。


『やっと着いたー・・・!』


柔らかい革のソファに腰を下ろしたら、意外にも疲れていたのか。
大きく息が吐き出された。


早速メニューを広げると

『やばい、ジャクソンがあるー!♡』

思わずあげた声に、黒服が微笑む。


「お一つで、よろしいですか?」

『はい♡あ、彼には、甘くない感じのノンアルコールを。』



インカムに口元を当てながら出て行く黒服と入れ違いに、要くんが入ってきた。


『勝手に好きなの頼みました♡』

「あ、まじで?早いな。笑」


私の隣に腰を下ろして、ふわっと笑う。


「じゃあ、それ飲んだら帰ろっか。」

『え?もう?』

「うん、例の人のとこ、人だかりできてた。
後で帰りがけに挨拶するから。」

『帰りがけ?そんなんでいいの?』

「うん、もういいや。笑
だいぶ“要陽斗来ましたアピール”出来たし。もう限界。」

『限界?私は全然平気だよ?』



せっかく、来たのに。
ガラスばりの壁の向こうに、グラスを載せたトレーが近づいてくるのが見えた。



「いや、俺が。」

『なんで?疲れた?』



予想外の返答に、振り向くと。




「疲れたよ。俺、嫉妬深いから。」




困ったように、僅かに寄せた眉と。
甘く、熱を発する瞳。

そこにあるのは、いつも私を一瞬で飲み込む蕩ける甘さ。




私の前髪を分ける、優しい手つきに。

心臓は、また。
懲りずに大きく飛び跳ねる。