要くんの中学の同級生だというその人は“金田さん”というそうで。
入れてくれたアイスコーヒーは、言われたとおりブラックが最適でとても美味しかった。
金「お互い“カナ”だから、三年間出席番号前後でさ。飽きたのなんのって。」
要「おい!笑」
要くんの、くしゃくしゃになって笑う笑顔と。子供のようにその人を“カナっち”と呼ぶ声が、あまりにも無防備で。
私もどんどん心が軽くなって、何度も声をあげて笑った。
何か作るね、とカウンターの奥に消えた金田さんを目で追って。
今さら、店内にお客さんが誰もいないことに気づく。
『こんな素敵なお店なのに』
「ん?」
『いや、私たち以外、誰もいないなぁと思って。』
ああ、と要くんは頷いて、濡れたグラスを置いた。
「ここ、今日本当は休みなんだよ。」
『そうなの?!』
「うん。どうしても連れてきたかったから、土下座した。笑」
『土下座!笑』
思わず私が笑うと、
「土下座してよかったよ。理沙が楽しそうだから。」
長い指で、ふわっと前髪を分けられる。
柔らかく細くなった目に、甘く胸が締まる。
慌てて視線を逸らして、アイスコーヒーに手を伸ばしたら。
『あ・・・!』
辺り一面が、オレンジ色に染まる。
突然始まったサンセットに、私は心の準備が出来てない。
大きな炎が、目の前で海に吸い込まれていく。
黒くなった海は、炎が浸かる部分だけをオレンジ色に反射して。
息をするのも、忘れる。
どんどん小さくなる炎に、反対に夜の気配が大きくなるのを察知する。
泣きそう。
こんなに近くで
星が回るのを見るのは初めて。
炎が海に沈みきったら、空一面が茜色に変わった。
『・・・すごかったー・・・。』
ため息を吐きながら、ゆっくり右隣を振り向いたら。
要くんは、もうこちらを向いていて。
「綺麗だった。」
小さく聞こえた言葉は、私に向けられたようにも聞こえて。
私の椅子の背もたれに戻った左手が、また髪を優しく撫で始めたとき。
まだ縮めるのかと呆れるくらい
心臓はまた、音を立てて縮んだ。