どSでしょ、と横顔を睨んだら。
知らなかった?と笑った。
日曜夕方の首都高は、思ったよりも流れていて。
穏やかな車内と相反する、過ぎ去っていく景色が気持ちよくて。
私は窓を開けたくなる衝動を抑えて、窓の淵にあごを乗せて外を見ている。
『なに笑ってんの?』
「犬みたいだな。笑
高速降りたら、窓開けよう。」
そうっと流れる洋楽と、要くんの心地よい話し方。
神様の、声みたい。
「体操座り。よくやるよね。」
『すいません、足癖悪くて。』
「いやいや。笑
ちっちゃいんだな、と思って。」
“ちっちゃいんだな”
そんな優しい言い方されたら、言い返す気も失せる。
もしかしたら要くんは。
私も知らない私を、どんどん見せつける。
「横浜が地元だったんだね。ご両親はまだ住んでるの?」
『母だけね。うちは父がいないから。』
人生における他人との家族ネタの中で、既に何百回も繰り返してきた言葉。
『途中からいないとかじゃなくて、リアルに最初からいないんだよね。
だから、足りない感がないから、寂しいとか思ったこともなくて。』
だからこそ。
邪気の無い問いかけは、きっとママを困らせた。
「右手。」
『みぎて?』
飴でもくれるのかな?と。
言われるままに差し出した右手の平は、ふわっと彼の左手の平に包まれた。
一瞬で恋人つなぎに変わった、二本の手と。
器用に、ハンドルを支える彼の右手。
『・・・運転ルール。』
「うん。だから、気づかないふりしてて。」
大きくて柔らかくて、熱い手の平。
もしかしたら要くんは。
私も知らない傷跡も、どんどん塞いでいく。
「寒くない?」
大丈夫、と頷いたけど。
贅沢になった私は
本当はその手を、離したくなかっただけ。