エレベーターホールから真っ直ぐの。

静かなロビーの中央で、一人立っている姿に胸が跳ねた。




細く流れる瞳と、完璧なフォルムの微笑んだ口元が。
こんなに離れていても届くほどの、熱量を放つ。


眩しそうな表情で笑う彼に。

私のほうが、ずっと眩しい。










「陽斗さんっ!」


目が眩んだ自分を立て直そうと、瞬きをした瞬間。
黄色い声が私を追い抜かした。


見る間に、彼を取り囲んでいくマネキンのような美人たち。
休日の静かなオフィスのロビーに、甲高い声を響かせる。




「今日もう上がりなんですかー?♡」

「私たちもなんです!今日こそご飯連れて行ってくださいよ~♡」

陽「ごめんね、今日は予定があるんだ。」



大輪の花たちが、己が一番甘い蜜を持っていると。
色とりどりの花弁を広げて、美しい蝶々を誘う。



「もうっ、毎回そうじゃないですかー!」

「あ、分かった♡
じゃあSTAR'sの皆さんも誘ってみんなで行きません?さっき休憩室で、何人かお見かけしたので♡」

陽「本当にごめん、今日は__________」

「だめ!今日は逃がしませんカラー!」



プンプン丸!だとか言って、何故か大爆笑する彼女たちに。
私はいよいよ、近づけない。

困った目線を一瞬こちらに向けた、黒い蝶々は。



「ね、陽斗さーん!♡」


立ち込めているであろう甘い香りに、立ち往生してる。






長くなりそう・・・別にいいけど。

受付の女の子と、目が合った。

軽く肩をすくめ、ちらりと視線を大輪の花たちに投げて。
困った顔で笑ってくれた。

何となく心強くなって、受付の前のソファに腰掛ける。








“実は陽斗さんが一番モテる”


リフレインする、チョコの言葉。

そうなんだろうなぁ、と遠くからお花畑の様子を観察して納得する。


要くんは、きっと優しすぎる。

押せばいけそうに見える。
女子はそういう、“穴場”感に弱いから。



航大が何度か女の子を瞬殺してるのを見たことがあるけど。
要くんはたぶん、そんなことしない。

けど、優しすぎるのもどうなんだろうね。
・・・別に、いいけど。








小さく息を吐き出して。

ハンドクリームを探そうとクラッチを覗いたら、目の前に影が落ちた。





「理沙。」






鈴の音が

耳を擽る。