盛り上がっていたら、膝の上の白いビーズのクラッチの中でiPhoneが震えた。
“どこにいる?”
来た。
浮かぶ短いメッセージに、心臓がきゅうっと縮んだ。
“瀬名ちゃんと話してるよ”
“じゃあ8階か。降りてこれる?
1階で待ってる”
気づけば、腕時計はちょうど15:00を指していて。
おそらく、よそゆきの顔で忙しくiPhoneをタップする私を。
じっと見ていた瀬名ちゃんが、再度問う。
「そういえば、理沙さんは今日なんでここに?」
『あー・・・うん、待ち合わせがあって。
もう、行かなきゃ。』
私が椅子を立ち上がると。
瀬名ちゃんは一瞬、マスカラもシャドウも乗せてない目を丸くした後。
ニヤッと、笑った。
「報告会、いりますね。」
『いりますかね。』
心臓が、5分までとは別人になる。
だから排出される血液が違くて、こんなにフワフワした気分になるんだ。
肩で揺れる巻いた髪の毛先が、浮ついた私を如実に表す。
「理沙子さんに会ったら、自分が嫌になった~・・・。早く終わらせて帰ろう!」
『そう?私からしたら、こんなきれいなオフィスで仕事してる瀬名ちゃん、羨ましかったよ。
瀬名ちゃんの今日の仕事がないと、明日みんな困るんでしょ?求められてるってことじゃん、
かっこいいよ。』
手鏡でグロスだけ塗り直して。
顔を上げると、そういう考え方したことなかった・・・と。
目からウロコをポロポロ落としている瀬名ちゃんが、私はやっぱり、すごく愛しい。
「メールします!」
『早くね♡』
エレベーターまで見送ってくれた瀬名ちゃんに、手を振って。
閉まったドアの中で、浅めの深呼吸をする。
静かに下がるこの四角い箱は
私を彼の世界へ連れて行く。
私はこれから
あの甘い音色と
熱い眼差しに捕らえられに行く。
舌が焼けるほど甘い
砂糖づけの景色の中で
彼が私だけに見せる、狂気が。
五感を、支配する。