大きなメガネで、眉間にシワを寄せて。
文字どおり“パソコンに噛り付く”。
誰もいない休日のフロアで一人。
大きなアイスティーの紙パックには、そのままストローが生えていて。
可愛いなぁ。
フロアの入り口からこっそり眺める瀬名ちゃんは、胸がきゅんとするほど。
必死で戦う働きマン女子だった。
みんな、どんな仕事でも。がんばってるんだな。
各々守りたい、信念のために。
声かけていいのかな・・・と迷っていたら。
「・・・理沙子さん?!?!」
瀬名ちゃんは椅子を倒すほどの勢いで立ち上がって、ずれたメガネを手で抑えた。
『久しぶりだね~来ちゃった♡』
「え、え、なんで?!なんでいるの?!」
ヨタヨタとデスクの間を。
両手を私に差し伸ばしながら、近づいてくる。
『アンヨが上手、アンヨが上手♡』
「女神降臨・・・」
よっぽど一人でこんつめていたのか、うっすら涙目でたどり着いた瀬名ちゃんを。
いい子いい子と抱きしめた。
「どこか信頼できるクリーニング屋知りませんか?!」
『なに、その第一声。』
変わらない、瀬名ちゃんの香り。
柔軟剤の柔らかい、清潔な香り。
こんな香りの、“好き”の塊。
男子にとっては堪らないはずなんだけど。
『萌えるね!!』
「燃えました。燃え尽きました・・・。」
おそらく私と違う“もえる”を使う瀬名ちゃんと、紙コップのアイスティーを片手に向かい合う。
西日の差し込む、静かなオフィスで。
2人きりでも小声で話す恋バナは女子にしかできない、最高の秘密交換。
『けど惜しいな~。
先帰っちゃったんでしょ?ちょっと寂しくない?』
「一応調べたら、深夜ラジオの収録に行ってました!」
『調べたんか。』
嬉しかった、と。
乱れたポニーテールが項垂れる。
瀬名ちゃんが嬉しそうだから、私も嬉しいよ。
瀬名ちゃんは私の、倫くんへの最高の借りだもん。
『わざわざクリーニング出して返すことないっしょ~。どれ、見てあげよう。』
「なんか勿体ないからだめ!」
慌てて紙袋を取り上げる姿に、お腹を抱えて笑う。
こんなに可愛い一部始終を、直生さんに見せてあげたいよ。