「そっか~!倫さんと直生さん来てたのか。
すげーニアミス。笑」
深くキャップを被るチョコと並ぶカウンターは、お気に入りのお蕎麦屋さん。
『直生さん、すごい可愛かった。』
「だろうね、ぱっと見俺より下に見られることもある。」
『ああ~、わかる!笑』
近くまで来てるから、もし出れるなら飯食わない?と連絡をくれた。
他愛もない会話のなかで、なんとなくチョコがソワソワしてるのを感じなから。
彼から切り出したくなるのを待つ。
「お待たせしました。」
私のとろろそばと、チョコの鴨南蛮が並んで。
いただきますと手を合わせて、お蕎麦の温かさを口に感じたとき。
一口目を飲み込んだチョコが、口を開いた。
「実はさ、ずっと理沙子の意見を聞きたいと思ってたことがあって。」
仕事のことだろうなとぼんやり思っていた私の意は、大きく外れた。
「好きな子がいて。もう5年くらい。」
ぽつりぽつりと話すチョコは、今までの大人びた表情をすっかり隠して。ただの、悩める子犬ちゃんになっていた。
ひとしきり、チョコの悩みが溢れ切ったとき。
うっかり漏れてしまいそうになる『可愛いな』を抑えて、女子代表としてアドバイスを終えたとき。
「・・・ああ~~、ちょっとすっきりした・・・」
チョコが照れたような笑顔でカウンターに伸びた。
「俺さ、多分キャラだと思うんだけど。
女友達多そうとか、男女分け隔てなく付き合いそうとか、そんな風に見られるんだけど。
高校まで男子校だったからさ、全然そんなわけなくて。女友達なんて、ほんと理沙子くらいだし。」
…ん?
女友達?理沙子って言った?
「たぶん向こうにもそう見られてるんだよなぁ~。ちゃらそうって言われた。笑
別にどう思われててもいいんだけどさ。
けど、夜中にこーやって会って話す女子なんて理沙子しかいないのにな。しかも蕎麦屋。笑」
やばい、チョコの話が入ってこない。
「理沙子?どした?」
『・・・あ、ごめん・・・
チョコ、私のこと友達って思ってるの?』
一瞬、驚いたような表情になったチョコは。
慌てて続けた。
「ごめん!馴れ馴れしかったね。
理沙子のこと、軽く見てるわけじゃないよ。仕事の時間外にこうやって会ってくれてることも、ほんと感謝してる。
ほんとごめん、勘違いしてるわけじゃなくて。」
やばい、違うふうに伝わってる?!
ちがうちがう、私は嫌なんじゃなくて!
「・・・あーー、ごめん。でも調子のってたかも。ほんとごめんね。」
『違うのです!!』
「えっ、、は?!」
いきなり大きな声で立ち上がった私を、さらに目を丸くして見上げるチョコ。
『嬉しかったの、友達なんてめちゃくちゃ嬉しい!!』
「え?え?どゆこと?!」
『チョコと、友達になれたらいいなってこの3年間ずっと思ってた。
けど、私はただのホステスだから。うぬぼれんなよって、ずっと自分に言い聞かせてきた。』
きょとんとした表情で私を見つめてるチョコ。
「理沙子・・・」
『ありがとう、ほんとにめちゃくちゃ嬉しい。友達にしてくれてありがとう。』
届いて、この気持ち。
賢い言葉で、私を何度も救ってくれた。
タイミングを外しまくった夜中の返信メールには、あったかい気持ちで笑わせてもらった。
ホステスの小技で敢えて距離を置こうとする私に、いつも真っ直ぐな笑顔で応えてくれた。
「・・・もう3年じゃん。いろんな話して、下ネタでも盛り上がれて。笑
俺にとっては十分だよ。」
目尻を下げて、いつものようにまっすぐな笑顔をくれる。
“優しい人”
その印象を、初めて会った夜から一度も裏切ったことがないね。
「友達と思ってなかったらさ、理沙子のこと好きになってたよ。笑
一流の小技何度もくらってるんだからさ。」
イタズラに笑って、豪快にお蕎麦をすすった。
なんとなく、ツンとなった鼻奥に焦って、私もお蕎麦をすすった。
お蕎麦はじゅんわりと温かくて、私はまた鼻奥がツンとした。