「しばらくうちにおいで。」
想定を遥かに超えた台詞に
思考回路は停止した。
『えーと・・・。
毎日お店の車でお姉さんたちと帰るし、寄り道ももうしないよ?』
だからもう、危なくないんだよ?
ていうか、しばらくって何?
何がどうなって。彼の中で、そうなっちゃうのか。
「うん、それは分かった。ぜひそうして。
だけど、正直全然安心できない。」
静かだけど堅い口調に。
私以外の何かへの。確かな、怒りを感じる。
「一度来てみれば分かると思うけど。
うちは本当に理沙子の家から近いんだよ。不便な思いはさせないから。」
『や、あの、要く、』
小さなため息が通話口から聞こえて、言葉を飲み込んだ。
「・・・ごめん、無理。」
目の前を行き交う、着飾った女子と裕福を装う男たち。
いつもは溶け込んでいるはずなのに。
今の私は、きっとひどく浮いて見える。
「またそんな思いさせたらって思うと、気が狂いそうだ。」
“そんな思い”
めちゃくちゃ怖かった、なんて言ってない。
メイクが落ちるまで泣いたとも。
あの夜は一人だったら、到底眠りにはつけなかったとも。
今日は、心臓がやけに鳴る。
この愚かな私のせいで、狂うほどの思いを噛み締めているのは。
紛れもなく、
この電話の向こうの要くんじゃない。
『狂うって。笑
そんな大げさな・・・』
「冗談で言ってるんじゃない。」
私の言葉を遮るような、強い口調は初めて。
電話でよかった。
この甘い憤りに
あの眼差しが加わってたら
体は、溶けてた。