遠くから、誰かが名前を呼んでる。


引っ張られそうになる意識に。

いやだいやだと、しがみつく。




昨日遅かったんだもん。

まだ寝てたい。

どうせ、仕事夜からだし。















「誘ってんの?手ぇ出すぞ。」









瞬間、耳の穴にとろりと注ぎ込まれた甘い声に。

体中の細胞が覚醒して、跳ね起きる。





『チョコを叱らないで!』

「なんの話だよ。笑」




いつの間に、帰って来たのか。

後ろになでつけた濡れた髪と、透ける肌。
色濃い目元のほくろと。
纏っているのは、昨日嗅いだシャンプーの香り。


航大は、素顔のほうが。生々しくて、色っぽい。




『・・・なんか今、妙なこと言ったね?』

「お前も十分妙な返ししたけどな。」



耳がぞわぞわした感触が悔しくて、思いっきり耳をこする。



「なにしてんの。笑
悪いけど、出ないといけないから帰る支度して。」



ふにゃっ、と私の頭を撫でて部屋を出て行く。

私はその隙に、スキニーに足を通し、ピアスを取りに航大を追う。




『ちょっとどいて』



ドライヤーをかける体の脇に入り込み、並んで鏡に映る。





揺れるパールのピアスを耳に通しながら。

そっと、斜め上の寝不足顔を盗み見る。






ドライヤーの音と熱。

ふんわり湿った、洗面所の空気。







『今日から、お店の車でみんなと帰る。』

「うん。」

『寄り道ももうしない。』

「うん。」

『いろいろありがとう。』







シュンーーと、ドライヤーが止まる音。



「勝手に外しただろ。」

『え?』