理沙子を起こさないように静かにリビングを抜けて。
玄関まで、チョコを見送る。
ソファから溢れた理沙子の白い足が、チョコの視界に入らないよう願いながら。
「あ、そーいえば。」
靴紐を結びながら、なんでもないことのようにチョコが切り出したのは。
チ「昨日、あの人来たよ。」
俺にとって、火中の栗。
航「・・・まじで?
ごめん。大丈夫だった?」
チ「俺、瞬殺で追い返しちゃったからさ。
理沙は風呂入ってたから、気づいてないと思う。」
瞬殺で?
帰った?あの人が?
チ「俺は航さんほど優しくないから。
言いすぎたかも。まずかったら、フォローしといて。」
じゃね、と出て行こうとする背中。
そういえば。
さっき携帯にメールが来ていたことを思い出す。
浮かんだあの人の名に。
朝から気が遠くなり、まだ開いてなかったけど。
チ「あとさ。」
そういえば。
異常なほどの着信なしで、メールだけ来たことなんて。
今までにあったか?
チ「いい加減にしないと、陽斗さんに取られるよ。」
顔をあげれば。
可愛い顔して、得意げに俺を見上げる。
かなわない、この犬っころには。
航「知ってたんだ?」
ニッと口を一文字にして笑う王子様に。
悔しいはずなのに、爽快な気分がこみ上げる。
音が立たないように、静かにドアを閉める。
いつの間にか倒れていた理沙のヒールを脇へ寄せる。
“俺は大抵のことは、理沙と共有してるよ”
一瞬胸を掠めた嫉妬に、自嘲する。
あんな些細なことにさえ嫉妬を感じる。
俺が、やばいのか。
そうさせる女が、
やっぱりやばいのか。