予定より上がりの時間が早くなり、次の仕事まで2時間も空いた。
一瞬、睡眠を取るかで心が動いたが。
昨日の理沙子の声が蘇り、気づけば車を走らせていた。
トンボ帰りになっても。
一目、理沙子を生で感じたかった。
マンションの手前の道端で、女が男と話しているのが見えた。
細い道だから、スピードを落として脇を通り過ぎようとしたとき。
その女が理沙子であることに気づいた。
思わずブレーキを踏んだが。
相手が陽斗だったら、とすぐに車を降りるのは躊躇う。
暗がりを、目を凝らして覗く。
・・・いや、陽斗じゃない。
誰だ?あいつ。
よく見ると、理沙子の腕?鞄・・・を、掴んでいるように見える。
何触ってんだよ・・・
知り合いか?
次の瞬間、強張った理沙子の顔がはっきりと見え
車を飛び出した。
理沙子が止めていなければ、簡単に手を出していたと思う。
頭に血が上り、無我夢中で。
少しの躊躇いも理性もなかった。
小さく震え、涙を流し続ける理沙子を
強く強く、抱きしめる。
このまま溶けて
俺の中で一つになればいいのに。
唇を寄せた首筋から立ち上がる、理沙子の甘い香り。
この香りが。
俺をいつも
切なく
熱く
苦しくさせる。
『こうだい・・・』
泣きじゃくりながら、時折聞こえる
小さく俺を呼ぶ声。
「・・・よかった、今日来て________。」
俺の腰にしがみつく腕に、一層の力が入る。
もうずっと、ここにいろよ。
今はもう
他に、何もいらない。