一瞬、息が止まった。



目が合った瞬間、全身がひっぱられるような吸引力を感じた。

覗き込まれるように笑われれば、座っているはずなのに甘い目眩を感じた。


少しの仕草で色気が立ち上がるのに。

倫さんを見上げる目は子供のように無防備で、それが俺との距離を感じさせ切なくなった。








「で、どうだった?」

帰りのタクシーが動き出すなり、倫さんに問われた。




「驚きました。笑」


正直に、そう答えた。


「悪くないかな。」


満足げに、だけど、慎重に様子を伺ってくれる倫さん。




「彼女がもし引き受けてくれるなら、十分だと思います。ありがとうございます。」


倫さんは、「そうか」と優しく呟くと、それからは黙って外を見ていた。













俺は、可愛い弟を思った。
彼女だと気づいたとき、全てに納得がいった。

夜中まで続く仕事の、わずかな合間をぬって出かけていくこと。

男の俺から見ても、はっとするほどの色気が薫るようになったこと。

それが、思い通りにならない苛立ちと紙一重で存在しているということ。





おそらく、チョコは違う。









だけど、航は。