語り継がれてきた物語というのは、いつも曖昧だ。

真実を記した物がないから、中途半端なまま都合の良いように解釈されていく。

子供の頃から聞かされ続けた化物のお話もその内の1つだ。

遥か昔、人間とは異なる種族がいた。

それは不思議な力を持ち、時に風を操り、時に海さえも操っていたという。

種族の壁を越え互いに尊重し、平和な暮らしを送っていたが、物語の中の平和というのはそう長くは続かない。

自身の力を使い、人間を襲ったのだ。

人間の想像を遥かに越えたそのちからで魔物を生み出し、人間を恐怖と絶望の闇に堕とした。

だが、人間は決して希望を捨てなかった。

闇を打ち消し、人間は勝ったのだ。

「どうやって?」

物語を聞かされた子供の問いに、大人は決まってこう答える。

「諦めない心と、立ち向かう勇気が闇に打ち勝ったのだ」

強く逞しく生きるようにと、子供は何度も何度もこのお話を聞かされる。

どこまでが本当で、嘘かも分からないこのお話を。

そして、悪さをする子供に大人はこう言うのだ。

名前すら分からない、人間とは異なる種族を闇に例えて。

「良い子にしないと化物が来るぞ」

と。